大鏡 - 左大臣仲平

 この大臣は、基経のおとどの次郎。御母は、本院の大臣に同じ。大臣の位にて十三年ぞ御座せし。枇杷の大臣と申す。御子持たせ給はず。伊勢集に、
 花薄われこそしたに思ひしかほに出でて人にむすばれにけり
などよみ給へるは、この人に御座す。貞信公よりは御兄なれども、三十年まで大臣になりおくれ給へりしを、つひになり給へれば、おほきおほいどのの御よろこびの歌、
 おそくとくつひに咲きぬる梅の花たが植ゑおきし種にかあるらむ
やがてその花をかざして、御対面の日、よろこび給へる。
廂の大饗せさせ給ひけるにも、横さまに据ゑ参らせさせ給ひけるこそ、年頃少しかたはらいたく思されける御心とけて、いかにかたみに心ゆかせ給へりけむと、御あはひめでたけれ。この殿の御心、誠にうるはしく御座しましける。皆人聞き知ろしめしたることなり、申さじ。
このおとどに伊勢の御息所の忘られてよむ歌なり。
 人知れずやみなましかばわびつつも無き名ぞとだに言はまし物を